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危険を恐れず登る・飛び降りようとする子どもへの支援──放課後等デイで守る「安全」と「挑戦」

支援

1. はじめに:なぜ放課後等デイで「危険行動」は起こるのか

放課後等デイサービスの現場では、「突然高い棚に登る」「窓際から身を乗り出す」「遊具から急に飛び降りようとする」といった危険を顧みない行動が見られることがあります。
これは単なる“やんちゃ”ではなく、発達特性や感覚の偏り、自己調整の難しさが関係している場合が少なくありません。

このような行動を「危ないからダメ!」と止めるだけでは、根本的な支援にはつながりません。
大切なのは「なぜその行動が起こっているのか」を理解し、安全と成長の両立を目指すことです。


2. 子どもが高いところに登る理由

2.1 発達段階における「挑戦欲求」

子どもは、発達段階に応じて“自分の身体の限界”を確かめようとします。
高いところに登る行為は、自己効力感(できるという感覚)を育てる自然な挑戦行動でもあります。
しかし、判断力や危険予測能力が未熟な場合、それが命に関わる危険につながることもあります。

2.2 感覚刺激を求める「身体感覚の偏り」

発達障害やグレーゾーンの子どもには、**感覚統合の偏り(Sensory Integration Dysfunction)**が見られることがあります。
とくに「前庭感覚(バランス感覚)」や「固有感覚(筋肉や関節からの感覚)」の刺激を強く求める子どもは、高い場所から飛び降りたり、強い衝撃を好んだりする傾向があります。
これは、脳が必要とする感覚情報を自ら“取りに行っている”行動なのです。

2.3 注意・衝動コントロールの課題

ADHD(注意欠如・多動症)の特性を持つ子どもでは、
「面白そう!」「登れるか試したい!」という瞬間的な衝動が行動に直結しやすい傾向があります。
この場合、「止める言葉」が届く前に体が動いてしまうことがあるため、環境の設計そのものが支援の鍵になります。

2.4 不安やストレスの発散としての行動

登る・飛び降りる行動が、情動の発散として現れていることもあります。
強いストレスや感情の高ぶりを身体運動で解放するタイプの子どもは、危険行為を“ストレス調整”として用いている可能性があります。
感情面へのケアも欠かせません。


3. 「飛び降りようとする」行動の危険性と心理的背景

飛び降り行動は、物理的にも最も危険な行為の一つです。
落下時の衝撃は体重の数倍に達し、骨折や頭部外傷につながることもあります。

一方で、その裏には「怖さを理解できていない」「怖さを感じたい」「注意を引きたい」「達成感を得たい」などの複数の心理動機が混在しています。
支援者は、行動の背景を一律に判断せず、観察と記録によって要因を特定する姿勢が重要です。


4. 放デイでできる安全確保の基本方針

  1. 高所へのアクセス制限:登れる構造物(棚・窓台・手すりなど)の配置を見直す。
  2. 危険予測の共有:スタッフ全員で“想定される危険行動マップ”を作成し、毎日確認する。
  3. 見通し支援:活動前に「どこまでOK・どこから危険」を具体的に伝える。
  4. 迅速な声かけ・交代制監視:危険行動が出やすい時間帯は職員配置を厚くする。

環境面での予防が、支援の第一歩です。


5. 実践的支援策

5.1 環境の整備とゾーニング

高低差がある場所や階段などは、「安全ゾーン」「チャレンジゾーン」と明確に分けます。
体を動かしたい衝動が強い子どもには、トランポリン・マット運動・ボルダリングマットなど、
安全に刺激を得られる環境を設定しましょう。

5.2 危険行動の“置き換え支援”

「登りたい・飛びたい」という欲求を否定せず、
それを安全な活動に置き換える支援を行います。
例:

  • 高所に登る代わりに「登ってジャンプできるマット遊び」
  • 飛び降りの衝動には「ジャンプ台+クッションで達成感を得る」

これにより、行動そのものの意味を変えずに、安全な表現を促せます。

5.3 視覚的なルール提示

言葉だけで注意しても、衝動が勝つ場合があります。
そのため、「登ってはいけない場所」や「ジャンプ禁止マーク」などをピクトグラム化し、
子どもが一目で理解できるルール設定が効果的です。

5.4 感覚調整活動(センサリーダイエット)の導入

日常的に、身体感覚を満たす活動(ブランコ・バランスボード・重い物運び・ストレッチ)を取り入れることで、
感覚欲求を適切に満たし、危険行動の発生を減らすことができます。

5.5 ポジティブ強化による行動変容

「危ないことをしなかった」ことを褒めるよりも、
「安全な場所でジャンプできた」「ルールを守れた」といった具体的行動を即時に承認することが大切です。
肯定的フィードバックが行動定着の最も強力な支援になります。


6. 事例紹介:登る・飛び降りる衝動を“成功体験”に変える

放デイに通う小学2年生の男児Aくんは、よく棚や窓枠に登ってはジャンプしようとする行動が見られました。
スタッフは即座に止めるのではなく、まず観察と安全確保を行い、その後「ジャンプマットエリア」を設けました。

「ここならジャンプしても大丈夫」と視覚的に示し、成功した際には拍手で称賛。
1か月後には危険な場所への登攀はほぼ見られなくなり、自分で“安全に楽しむ”ことを選べるようになりました。


7. 保護者との連携:禁止ではなく「共に見守る」関係へ

家庭でも同様の行動が見られる場合、
「危ないからやめて」ではなく、「どうしたら安全に挑戦できるか」を共に考える姿勢が効果的です。
放デイと家庭が同じ基準で対応することで、行動の安定と安心感が高まります。


8. まとめ:危険行動の背景理解が、子どもの成長を支える

高いところに登ったり、飛び降りようとする行動は、
「危険なことをしたい」のではなく、自分の感覚や力を確かめたい・安心したいというサインであることが多いです。

私たち支援者は、行動の表面だけを抑えるのではなく、
背景を理解し、安全な形でそのエネルギーを生かす方法を共に考える必要があります。

「危険を回避すること」と「挑戦を支えること」は、相反するものではありません。
そのバランスを支えるのが、放課後等デイサービスの専門的支援です。


参考

「発達障害支援の手引き」:厚生労働省

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