1. はじめに:なぜ「口に入れる・舐める行為」は放デイで目立つのか
放課後等デイサービスの現場では、特に幼児期〜小学校低学年で、玩具や床のものを舐めたり、手にした物を口に入れてしまう行動が見られることがあります。こうした行為は、衛生面のリスクや誤飲・窒息といった身体的危険につながるため、支援者・保護者にとって大きな悩みの一つです。
一方で、行為そのものをただ叱責して止めさせるだけでは、その子どもの背景や欲求、発達的意味を見逃してしまうことがあります。まずは、なぜそのような行動が起きるのかを整理し、安全かつ発達を促す支援を設計していくことが重要です。
2. 行為の背景を知る — 発達段階・感覚・不安の関係

2.1 成長過程で見られる“探索行動”
乳児期〜幼児期初期には、子どもがものを口に入れる行動は一般的な探索行動です。口は、大人が視覚や触覚で確認するよりも早く、形・硬さ・味を“確かめる”ための器官として機能します。こうした行動は発達の一過程として見られ、自然に減少することが多いと言われています。
2.2 感覚刺激の欲求と「オーラルセンサリー」
口に物を入れたり舐めたりする行動は、単なる探索ではなく、感覚刺激を求める行動である場合もあります。特に発達障害傾向のある子どもでは、視覚・触覚・味覚などに対する過敏性や鈍感さがあり、口腔内の刺激を通じて安心感や快適さを得ようとすることがあります。このような感覚追求は、行動の背景として理解が必要です。
2.3 発達特性と“自己刺激行動”
自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)の特性をもつ子どもでは、ストレスや不安を和らげる「自己刺激行動」として、舐める・噛む・口に入れる行為が見られることがあります。これは行動そのものが“安心感の調整”という役割を果たしている可能性があるため、単に止めさせるだけでは根本的な支援になりません。
2.4 年齢・発達段階との区別
一般的に、2歳頃までは何でも口に入れる行動が見られるのは比較的普通ですが、年齢が上がっても継続する場合は個別の背景がある可能性が高まります。特に放デイに通う年齢の子ども(3歳以上)でこの行為が強く残る場合は、感覚面・発達面・不安やストレスなどを丁寧に評価していく必要があります。
3. 危険と不衛生 —— 具体的リスクと影響
物を舐めたり口に入れる行為には、以下のような物理的・衛生的リスクがあります:
- 誤飲・窒息の危険:小さなものを誤って飲み込むことによる窒息。
- 中毒・感染症:床や外から拾った物に付着した汚染物質による健康被害。
- 消化器への障害:消化できない物を誤飲することで腸閉塞などを引き起こす可能性。
- 口腔・歯の損傷:硬い物を噛むことで歯や口内を傷つけるリスク。
これらは、日常場面で大人が見守るだけでは防げないこともあるため、支援環境全体でリスク観点から対応が必要です。
4. 初動対応の原則 — 怒らない・焦らない・観察する
危険な行為を目撃したとき、大人はつい大きな声で注意しがちですが、即時の叱責や強制は効果が薄く、むしろ不安やストレスを強めてしまうことがあります。まずは次の点を意識しましょう:
- 落ち着いて対応する:急に取り上げようとせず、安全に取り除く。
- 観察しながら関わる:行動の前後関係を観察し、なぜ行っているのかを探る。
- 危険物の即時除去:子どもの手の届く範囲から危険物を取り除く。
“叱る”ではなく“安全を守りつつ背景を理解する”姿勢が重要です。
5. 放デイでできる支援の具体策

5.1 環境調整と安全確保
放デイ内では、誤飲可能な小物などは初めから排除することが最も有効な安全策です。また、机や床などの清掃・消毒も徹底し、常に衛生的な環境を保つことが求められます。
5.2 代替行動の用意 — 安全な感覚刺激を提供する
口腔刺激を求める傾向がある場合は、安全な噛み玩具(咬むための玩具)や感覚おもちゃを用意し、口腔系の欲求を満たす選択肢を増やすことが有効です。これにより、同じ感覚満足を得つつ危険行為を減らすことができます。
5.3 見える化と予測可能なスケジュール
日課や活動予定を視覚的に示すことで、漠然とした不安や退屈感を減らすことができます。予測可能な環境は、行動面の安定につながります。
5.4 ポジティブ強化による行動支援
望ましくない行動よりも、「適切な代替行動をしたとき」に即座に褒めたり合図を出したりすることで、好ましい行動が増えていきます。
5.5 逐次的な段階的介入
行為そのものをゼロにするのではなく、小さなステップで安全な行動へ導く介入計画を立てます。支援者で観察し、子どもの反応をもとに調整していくことが大切です。
6. 事例紹介:支援の工夫とその効果
例えば、ある女児は放デイで床に落ちていた紙片を繰り返し口に入れてしまう行動がありました。支援者はまず安全確認し、口腔刺激用の安全な噛む玩具を用意して代替行動を促しました。玩具への移行ができた際に褒める支援を継続したところ、1カ月ほどで危険物を口に入れる回数が大幅に減少しました。
7. 保護者との連携と家庭での対応
家庭でも、誤飲しやすい物の管理、玩具や手を舐めても安全な刺激玩具の導入、口腔刺激の目的を共通理解することが大切です。放デイと家庭で方針を共有することで、子どもにとって一貫した支援が可能になります。
8. まとめ:危険行為を理解し、安全と学びにつなげるために

「物を舐める」「何でも口に入れる」といった行動は、単なる危険行為ではなく、感覚欲求・探索行動・不安緩和の手段として現れることがあります。しかし、不衛生・誤飲・窒息といった重大なリスクを伴うため、放デイでは安全対策と支援計画が不可欠です。
背景を理解しつつ、環境調整・安全確保・代替行動の支援・ポジティブ強化を組み合わせることで、子どもの安心・安全を守り、発達的な学びと自己調整力を育む支援につなげていきましょう。
参考
「発達障害支援の手引き」:厚生労働省


