PR

指示を無視して好きなことばかり…なぜ?――放デイで考える“やりたい優先”行動の意味と支援

支援

1. はじめに:「指示を聞かない=わがまま」ではないかもしれない

放課後等デイサービス(以下、放デイ)でよく見られる行動の一つに、「〇〇して」と声をかけても子どもが自分の好きなことを続けてしまう、というものがあります。

一見すると「わがまま」「反抗的」と思われがちですが、発達の特性や心理的背景によって、指示を受け入れることが難しいケースも少なくありません。

このような行動は単なる“言うことを聞かない”ではなく、子どもなりの不安・安心・集中のバランス自分を守るための行動であることも多いのです。


2. なぜ「指示を無視して自分のやりたいこと」を続けるのか?

子どもが指示を受け入れず、自分のやりたいことを優先してしまう背景には、以下のような理由が考えられます。

2-1. 実行機能の弱さによる「切り替えの難しさ」

発達障害やグレーゾーンの子どもには、「今していることを止めて別のことを始める」という切り替えが苦手な場合があります。
この「実行機能(行動を制御し、次の行動に移る力)」がうまく働かないため、遊びや好きな活動に集中している最中に「やめて」と言われても、脳がスムーズに切り替えられないのです。

2-2. 興味や安心感を優先する心理

好きな活動や興味のあるものに没頭しているとき、子どもにとってそれは「安心できる時間」であり、心を落ち着けるための手段になっていることがあります。
特に発達特性がある子どもは、予測できないことや不安を避ける傾向が強く、自分でコントロールできる「やりたいこと」を続けることで安心を得ようとするのです。

2-3. 指示の理解が難しい

口頭での指示は、音声処理や言語理解が苦手な子どもには伝わりにくいことがあります。
「片付けて」「やって」といった抽象的な言葉は曖昧で、何を、どのようにすればよいのかイメージが湧きにくいのです。
結果として「聞いていない」「無視している」と見える行動になることがあります。

2-4. 支援環境や関係性の問題

支援者との関係が安定していない、あるいは「やらされる」「叱られる」といった経験が多い場合、子どもは指示そのものに警戒心を持ちやすくなります。
安心感の欠如は、行動の拒否や回避を強める要因になります。


3. 支援の第一歩は「背景の理解」から

子どもが「指示を無視して好きなことを続ける」行動を見せたとき、支援者が最初にすべきことは原因を探ることです。

「なぜこの子は今それを続けたいのか?」
「やりたくない理由があるのか?」
「もしかすると不安や疲労があるのでは?」

こうした視点で観察し、記録を残していくと、行動のパターンやトリガー(きっかけ)が見えてきます。
これをもとに支援方法を調整することで、無理のない対応が可能になります。


4. 放課後等デイサービスでできる具体的支援

4-1. 指示を「短く」「具体的に」「見える形で」

  • 口頭だけでなく、絵カードや写真を使って伝える
  • 「まず、机に座る」「次に、ノートを出す」と順序を分けて提示
  • 「早く」「ちゃんと」など曖昧な言葉を避け、「〇時までに」「この箱に入れて」と具体的な行動で伝える

これにより、指示が理解しやすく、行動の切り替えもスムーズになります。


4-2. 見通しをもたせる

活動の予定や順番をホワイトボードやタイマーなどで示し、「何を・いつ・どのくらいするか」を明確にします。
先の見えない不安が減ることで、指示への抵抗感も軽くなります。


4-3. 「やりたい」を尊重しながら切り替える

  • 「この遊びが終わったら、5分後に宿題を始めよう」と予告を入れる
  • 「これを終えたら好きなことをしよう」という報酬を設定する
  • 子どもの興味を活動に取り入れる(例:「ブロックで数字を作って数える」など)

「やりたいこと」を認めながら、次の行動へ橋渡しすることで、子どもは安心して切り替えやすくなります。


4-4. 小さな成功を積み重ねる

できたときにはすぐに「ありがとう」「助かったよ」「できたね」と肯定的な言葉で認めましょう。
この小さな成功体験の積み重ねが、「やればできる」「指示を聞くと嬉しいことがある」という前向きな学びにつながります。


4-5. 支援者間の連携を強化する

放デイ、学校、家庭で支援方針が異なると、子どもは混乱します。
「どんな言葉で指示を出すのか」「どんな方法で切り替えを促すのか」を共有し、環境の一貫性を保つことが大切です。


5. ケーススタディ

ケース1:遊びに夢中で片付けをしないAくん

支援者が「片付けて」と声をかけても反応なし。
Aくんはブロック遊びに没頭していました。

支援者は「あと3分で片付けようね」と予告し、タイマーを使用。
残り1分で「もう少しだね」と声をかけ、片付けが始められたら「約束守れたね!」と褒めました。

この積み重ねで、Aくんは「時間がくると終わる」リズムを少しずつ身につけました。


ケース2:指示に従わず、自分のやりたいことを優先するBさん

宿題の時間になっても好きな絵を描き続けるBさん。
支援者は「あとで続きを描けるように、宿題の後に時間を作ろう」と提案。
Bさんは安心して宿題に取りかかることができました。

「やりたいことを尊重する姿勢」が、信頼関係の構築につながった事例です。


6. 支援者の心構え

支援の現場では、「指示を聞かない」という行動にイライラしてしまうこともあります。
しかし、怒りや強制は一時的な従順を生むだけで、長期的には不安と拒否を強める傾向があります。

大切なのは、「どうすればこの子が安心して行動できるか」を常に問いながら、子ども主体の支援を継続していくことです。


7. まとめ

「指示を無視してやりたいことを続ける」行動は、単なる反抗ではなく、

  • 実行機能の弱さ
  • 不安や安心感の偏り
  • 指示の理解困難
  • 環境・関係性の影響

といった複数の要素が関係しています。

放課後等デイサービスでは、子どもの行動の背景を理解し、
「安心して切り替えられる環境」「納得して行動できる支援」を整えることが何より大切です。

「やりたい」を尊重しながら、「やるべきこと」に向かえる――
そんな支援こそが、子どもの自立と自己調整力を育む第一歩です。

参考

「発達障害支援の手引き」:厚生労働省

タイトルとURLをコピーしました