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発達障害の“強いこだわり”とどう向き合う?放デイで支えるこだわり軽減の方法

支援

1. はじめに:なぜ“こだわり”は問題になりやすいのか

発達障害を持つお子さん、とくに自閉スペクトラム症(ASD)などでは、「強いこだわり」がしばしば見られます。例えば、同じ順序でしか行動できない、特定の物やルールに固執するなどです。これらのこだわりが深刻になると、日常生活に支障をきたしたり、人間関係でトラブルを引き起こすことがあります。放課後等デイサービス(以下「放デイ」)の現場でも、こだわりへの対応は重要な支援テーマの一つです。

しかし、一方で「こだわりは悪/直すべきもの」と単純に捉えるのではなく、その背景や意味を理解しながら支援を進めることが大切です。本稿では、放デイという支援の現場を想定しながら、こだわりを「減らす」のではなく「折り合いをつけていく」方法を具体的に紹介します。


2. こだわりとは何か?その背景と意味

2.1 発達障害におけるこだわりの本質

発達障害のある子どもに見られるこだわり(強いこだわり)は、単なる「わがまま」とは異なります。ASDのこだわりは頻繁に「同じ服・食べ物」「独自のルール・順番」といった形で表れ、これはその子なりの世界を予測可能にし、不安を減らすための手段である場合が多いとされています。

また、体験談でも指摘されているように、こだわりの強さは不安の表れであったり、予測不能な世界に備える手段でもあります。
つまり、こだわりは必ずしも“直すべき悪”ではなく、子どもにとって重要な自己調整の道具になっているのです。

2.2 こだわりが自己調整や安心の手段となる理由

強いこだわりは、以下のような機能を持っていることがあります:

  • 予測性を確保する:いつも同じ順番・ルールを持つことで、変化による不安を軽減する。
  • 感覚刺激の調整:特定の行動や対象を通じて感覚を安定させ、落ち着きを保つ。
  • 自己効力感の確保:自分のルールの中でコントロールできる体験を持つことで安心感を得る。
  • 長所・集中力の源になることも:こだわりが「集中力」や「深い知識」につながる長所であるという視点が紹介されています。

したがって、支援者としてはこだわりを全面否定するのではなく、その“意味”を理解しながら関わることが効果的です。


3. 放課後等デイサービスで支援する意義

放課後等デイサービスは、学校や家庭とは違う時間・空間・人との関係の中で子どもが過ごす場です。ここでは、こだわりを扱ううえで次のような支援が可能です:

  • 見通しの提供:ルーチンや予定に余裕を持たせて提示することで、不安を軽減できる。
  • 代替手段の導入:強いこだわり対象(物・行為)を、他の方法や代替品で段階的に置き換える実験ができる。
  • 自己調整支援:こだわりが暴走しそうな時に、クールダウンできるスペースや支援を設ける。
  • 振り返りと教育機会:こだわりが出た時に「なぜこだわった?」「どうすれば折り合いがつく?」を支援者・子ども・保護者で話す機会を持てる。

さらに、放デイガイドラインでも「子どもの意思を尊重する」「最善の利益を考慮した支援」が重要とされており、こだわりへの配慮は権利擁護の観点からも支援方針に組み込むべきです。


4. 強いこだわりを減らす/緩和するための具体的な方法(5選)

以下は、放デイや家庭で実践できる「こだわりを完全にはなくさず、緩和・折り合いをつけていく」ための具体的な方法です。

4.1 安定した見通しとルーチンを設ける

  • 予定表の視覚化:1日の流れや変更を絵や文字で可視化し、子どもに見通しを持たせます。
  • 予告と準備:「いつもと違う場面」が来る場合は、事前に予告し、準備時間を確保。
  • タイマーや合図を使って時間を知らせ、切り替えを促す。

これによって、こだわりが発生しやすい“変化”に対する不安を緩和できます。

4.2 安心できる代替手段・代替品を準備する

  • 同じものを複数用意する:こだわる服・ぬいぐるみ・おもちゃなどがある場合、予備を複数持つ。ベネッセの体験談でもこの方法が紹介されています。
  • 代替ルーチンの提案:お気に入りの行動を少し変えたバリエーションを用意し、選べるようにする。
  • 選択肢を提示して段階的に変える:すぐには変えず、「これかあれ、どっちがいい?」など選ぶ余地を与える。

これにより、子どもは「変化=不安」と結びつけず、安心感を維持しながら柔軟さを育てられます。

4.3 クールダウン・落ち着きスペースを活用する

  • 安心コーナーを設ける:静かな場所、落ち着ける照明、好きなアイテムがある“クールダウンスペース”を用意する。
  • 呼吸・リラックス支援:深呼吸、音楽、重みブランケット、バランスボールなどを使って自律神経を整える。「深呼吸」などを使った自己調整が効果的と紹介されています。
  • 移動による切り替え:興奮やこだわりが高まったら物理的に場所を変えて気持ちを落ち着ける。

4.4 選択肢を増やし、柔軟性を育む練習をする

  • 複数の方法を示す:行きたい順番、服装、活動のやり方など、複数の選択肢を最初から提示して選ばせる。
  • 小さな変化を繰り返す:いきなり大きく変えるのではなく、「今日はちょっとだけ変えてみよう」と少しずつバリエーションを増やす。
  • 成功を褒める:柔軟に選択できたとき、支援者・保護者が肯定的に反応し、達成感を与える。

この練習を重ねることで、こだわりへの柔軟性が徐々に育まれていきます。

4.5 感情表現を支えるコミュニケーションと振り返り

  • 言語化を支援する:「何がいやだった?」「どう思った?」など、こだわりが出た場面を言葉で整理する支援をする。
  • 振り返りの時間を持つ:活動後やこだわりが出た後に、支援者・子ども・保護者と一緒に「どうすれば次は楽にできるか」を話し合う。
  • 肯定的な対話:こだわりを否定せず、「分かるよ」「それはあなたにとって大事だね」と共感しながら、折り合いをつける方法を共有する。

これらは子どもの自己理解を深め、自己調整力を育成するうえで重要です。


5. 支援者(職員・保護者)が注意すべきポイント

  • こだわりをすぐに撤廃しようとしない:無理にやめさせると逆効果になり、パニックを引き起こすことがあります。
  • 子どものこだわりの意味を探る:どんな不安や感覚の調整が背景にあるのかを支援者が観察・推測することが重要。
  • 本人の意思尊重:放課後等デイサービスガイドラインにもあるように、子どもの意見を聞き、最善の利益を考える支援が求められています。
  • 支援は段階的に:こだわりをゆるやかに変えていくには、一度に大きな変化を求めず、小さなステップで練習を積むことが現実的。
  • チームで共有:保護者・支援者(職員)・学校がこだわりについて情報を共有し、対応法を統一しておくと、子どもにとって安心感のある支援が実現しやすい。

6. ケーススタディ:放デイでの成功例/実践例

事例A:順序にこだわる子どもへの支援
ある放デイ児童(ASD傾向あり)は、毎朝おやつを食べる順番に強いこだわりがあり、順番が変わるとパニックを起こしていました。支援チームはまず「順番カード」を作り、可視化。「今日はこの順番」「明日は少し変えてみよう」と少しずつ選択肢を提示。さらに、予告タイマーを使って「あと3分で順番を変えていい?」と声かけ。数週間の練習の結果、順番の変化を受け入れる柔軟性が少しずつ育ち、それまでよりもこだわりによる混乱が減ったという報告があります。

事例B:お気に入り玩具へのこだわりと代替導入
また別の子どもは、特定のぬいぐるみやおもちゃへの非常に強いこだわりを持っていました。支援者は同じぬいぐるみを予備で複数用意し、「今日はどれを使うか選べる」ようにしました。加えて、似た質感・形のおもちゃも徐々に紹介。代替品を試すことができる環境を整えたことで、こだわりが強い対象を少しずつ広げることに成功。子どもはその後、代替品も「安心できるもの」として受け入れる幅が広がっていきました。


7. 継続支援のために:振り返りと見直しのしくみ

こだわりへの支援は一度きりではなく、継続的な振り返りと調整が不可欠です。以下の仕組みづくりが有効です。

  • 定期ミーティング:支援者・保護者・子どもを交えて、こだわりの現れ方・変化・効果を振り返る。
  • 個別支援計画の更新:こだわり対応部分をISP(個別支援計画)に反映し、目標や支援方法を定期的に見直す。
  • 自己調整ツールの導入:こだわりが出たときにクールダウンするカード、呼吸カード、感情日誌などを活用。
  • 成功体験の記録:こだわりを柔軟に扱えた場面を記録し、子ども・支援者ともに振り返って「できること」の実感を増やす。

8. まとめ:こだわりを“減らす”ではなく、“折り合いをつける”支援へ

強いこだわりは、発達障害の子どもにとって、安心・予測可能性・自己調整の重要な手段であることが多いです。無理にこだわりを消そうとするのではなく、「どう付き合っていくか」「代替をどう用意するか」「安心をどう支えるか」を丁寧に設計することが支援の本質です。

放課後等デイサービスの現場では、こだわりを尊重しながらも変化を促す支援が求められます。安定した見通し・代替手段・クールダウン・選択肢・対話を通じて、こだわりと折り合いをつけていくアプローチこそが、子どもの自己調整力と安心感を育てる鍵になります。


9. おわりに:まずは小さな変化を目指そう

支援を始める際は、小さなステップから。「明日のおやつの順番だけ変えてみる」「今日は予告タイマーを使ってみる」といった小さな試みで始めてみてください。そして、成功したらしっかり共有し、継続・改善のサイクルを作りましょう。こだわりを“敵”ではなく“対話すべきパートナー”と捉えれば、子ども自身の安心感と成長を支える力になります。



参考

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