はじめに:言葉に頼れない子どもたちとの向き合い方
「声をかけても反応がない」「話しかけても返事をしない」「友達とうまく関われない」――
そんな子どもの様子を見て、「この子はコミュニケーションが苦手なんだな」と感じたことはありませんか?
放課後等デイサービスや福祉の現場では、言葉によるやりとりが苦手な子どもとの関わり方に悩む場面がよくあります。
でも実は、そうした子どもたちも、伝えたい気持ちや関わりたい思いをしっかりと持っているのです。
この記事では、コミュニケーションが苦手な子どもたちへの支援の考え方と、実際に使えるアプローチを紹介します。
なぜ子どもは「うまく伝えられない」のか?
コミュニケーションの苦手さには、いくつかの要因があります。
- 発達特性(自閉スペクトラム症、言語発達の遅れなど)
- 相手の気持ちや表情を読み取ることが難しい
- 言葉を使って整理・表現する力が弱い
- 過去の失敗体験から自信を失っている
つまり、「話したくない」のではなく、「どう話せばいいか分からない」「伝えるのが怖い」という状態であることが多いのです。
だからこそ、“言葉を引き出す支援”ではなく、“伝えられる環境を整える支援”が求められます。
言葉以外のコミュニケーション手段を増やす

■ 視覚的アプローチ(絵カード・写真・スケジュール)
- 自分の気持ちや行動を「目で見て理解」できるようになる
- 「言葉で言わなくても伝えられる」安心感をつくる
- 選ぶ・指差す・並べるなどの簡単な動作でも意思表示が可能に
■ ジェスチャー・表情・音声ボタン
- 手を挙げる、うなずく、表情で示すなど、非言語のコミュニケーションを重視する
- 「ありがとう」「イヤ」のようなボタンを用意することで、意思表出のハードルが下がる
■ スモールステップで「伝えられた!」を積み重ねる
- 「はい/いいえ」で答えられる質問からスタート
- 答えやすい話題(好きなもの、今日食べたもの)で成功体験をつくる
- 「うなずいてくれたね、ありがとう」といった行動を肯定的に返すことが自信につながる
関わり方のコツ:無理に話させない・待つ・寄り添う
コミュニケーションが苦手な子どもに対して、「どうして話さないの?」「ちゃんと答えなさい」といった声かけは逆効果になりがちです。
大切なのは、
- “沈黙”もひとつの反応として受け止める
- 話せるようになるまでの“安心感”を育てる
- 「今は無理でも、いつか話せるようになる」ことを信じて待つ
という、支援者側の「構え」の部分です。
言葉が出ないことに焦点を当てるのではなく、関係性の中で自然に生まれてくる「伝えたい」という気持ちを育てることが、真の支援になります。
友達との関わりをどう支えるか

コミュニケーションが苦手な子どもにとって、集団活動や友達とのやりとりは大きなハードルです。
■ 無理に関わらせない・見ているだけもOK
- 「やらせる」よりも「一緒にいるだけでもいい」というスタンスで
- 見ているうちに「やってみたい」が育つタイミングを待つ
■ 関わりやすい場面を用意する
- パズルやブロックなどの“並行遊び”がしやすい活動
- ゲームやカードなど、役割が明確で自然にやりとりが生まれる活動
■ 関係づくりに時間をかける
- 支援者が「通訳」になりながら、少しずつ橋渡しをする
- 同じペース・同じ反応をする子とのペアやグループづくり
保護者との連携で支援の幅を広げる
子どもが言葉を発しないことに対して、不安や焦りを抱える保護者も少なくありません。
だからこそ、支援者は、
- 家庭での様子を丁寧にヒアリングする
- 「言葉は出ていないけど、こんな風に関わってくれましたよ」とポジティブな報告をする
- ご家庭でも使える視覚支援ツールを共有する
など、支援の考え方を共有し、一緒に子どもの変化を見守る関係を築くことが大切です。
まとめ:言葉だけがコミュニケーションじゃない
話すことが難しくても、子どもたちはしっかりと“伝えたい気持ち”を持っています。
それを受け止めるためには、「話す力」を伸ばす支援ではなく、「伝えられる安心感」をつくる支援が必要です。
無理に言葉を引き出すのではなく、表情、動き、しぐさ、視線――
どんな形でも「この子は今、こう言ってるんだな」と理解しようとする姿勢こそ、支援者に求められる力です。
言葉にならない想いに、ちゃんと届く関わりを。
その積み重ねが、子どもたちの“伝える力”を静かに育てていきます。
その積み重ねが、子どもたちの“伝える力”を静かに育てていきます。